WBAコンサルタント 上田 英貴
1. はじめに
台湾最大級の総合食品見本市「FOOD TAIPEI 2024」が6月26~29日まで、台北市内の南港展覧館で開催され、視察に訪れた。主催者の台湾貿易センター(TAITRA)によると、世界77カ国・地域からの5,000人を超える外国人バイヤーを含む、約5万人が来場したとのことである。特に、海外バイヤーの来場者の上位5カ国・地域は日本、韓国、マレーシア、香港、フィリピンだったという。
現在、「これから輸出を始めよう」と考えている中小食品関連企業を対象に、輸出支援講座を開催する計画を進めている。この講座では、毎月1回、計8回に渡って、台湾への食品輸出に関わるマーケティングや実務の知識を学ぶ機会を提供していく。さらに、実際にFOOD TAIPEIに出展するまでを伴走支援していく予定である。今回は、台湾の市場状況や現地視察状況について報告する。
2.台湾への食品輸出動向
農林水産省(2023)作成「2022年農林水産物・食品の輸出額の推移」(図表1)によると、2023年は、アフターコロナの状況下で、世界的に⼈々が外出して飲⾷する機会が増え、円安も追い⾵となり、上半期の輸出実績は前年同期⽐で+9.6%と⽐較的順調であった。⼀⽅、下半期には、ALPS処理⽔の放出に伴い、中国などが輸⼊規制を⾏ったため、中国など向けの輸出が⼤幅に減少した。しかし、年間を通してみると、昨年の⽔準を若⼲上回った。コロナ禍においても、一貫して伸長し、2012年の約3.2倍の規模に拡大している。
次に、日本からの「国・地域別の輸出額」(図表2)をみると、台湾は4位に位置している。3位の米国の3/4、4位の韓国の倍以上の輸出金額である。台湾の人口が2,341万人(2024年3月)であることを考慮すると、いかに多くの食品が日本から台湾に輸出されているかがわかる。さらに、2023年12月の単月輸出額を見れば、1位の中国を上回り、香港、米国に迫る勢いであり、2024年には3位以内に入ることが予想される。
最後に、台湾向け輸出品を品目別に見た場合、図表3の通りである。フルーツ大国の台湾であっても、自国では採れない「りんご」は6年連続して1位であり、2020年からは「ぶどう」もトップ10に入ってきている。輸入品はどうしても価格が高くなるため、ローカルで産出できない食品という付加価値が求められる。その点、「うなぎ」や「わさび」といった日本が得意とする食品であっても、台湾でも採れる食材は苦戦すると思われる。
3.現地スーパー他小売り店の視察
展示会に先立ち、6月24日午後と25日終日をかけて、現地の高級スーパー、ローカルスーパー、鮮魚市場を視察した。まず、日本製品を数多く見るために、台北101のフードコートに併設されている「Jasons」とSOGOにある「City super」を視察した。どちらも、高級スーパーであるとはいえ、まず価格を見て驚いた。当時、1TWD≒4.8円であり、円安の状況は承知しているが、TWDの表示がそのまま円でも違和感がない。つまり、日本製品が国内の約5倍の価格で販売されているのである。日本の牛乳1Lが200TWD(1,000円)、シャインマスカット2.500TWD(12.500円)、純米酒 1升3,000TWD(15.000円)といった具合である。台湾の一人当たりGDPは、IMFの見通しによると2024年に34,432ドルと日本の33,138ドルを抜く予定であるが、ほぼ同じ経済力であることを考慮すると、やはり高い。加えて、種類も豊富で、日本の高級スーパー以上の品揃えである。「本当にこの価格で売れているのだろうか?」と思い、目の前にあった調味料の裏面表示を見ると、賞味期限まであと1か月ほどであった。やはり、富裕層向けの高級品であり、数が出るものではないと感じた。
続いて、台湾全土に約1,000店舗以上ある「全聯福利中心」というローカルスーパーにいってみた。日本でいえば「ライフ」のような感じである。日本製品の種類はぐっと減るが、日本製の醤油や味噌などの調味料は豊富に置いてあった。中でも「ハウスバーモントカレー」が棚いっぱいに置かれていて驚いた。高級スーパーのように、余り売れていなくても品揃えを誇るために置いているということは、ローカルスーパーの場合はないと思われるため、日本カレーの人気のほどが伺える。
高級スーパーでも、ローカルスーパーでも気がつくのは、日本語のラベルそのままで販売されていることである。さらに、「青森のりんご」「北海道の牛乳」のように商品名に加えて県名が併記されていることがブランド価値を高めている。現地コーディネーターによれば、日本の産地が台湾の方に品質の高さをイメージさせているとのことであった。
さらに、台湾三大オーガニックショップの内の2店、「棉花田」と「里仁」を視察した。いずれも台湾全土に店舗展開しており、多くの品揃えを誇る。台湾は日本と比較して、ベジタリアンも多く、有機食品の普及も進んでいる。現在、日本と台湾は相互に有機制度の同等性を認めており、有機JAS認証を受けた製品は、そのまま台湾で有機食品として販売することができる。最近では日本国内の有機食品も増えてきたが、台湾国内に良い有機食品が多く存在するため、特徴ある製品でないと価格面での課題が残ると感じた。
4.FOOD TAIPEI 2024の視察
6月26日と27日の両日は、FOOD TAIPEI 2024の会場に足を運んだ。会場の広さは、東京ビッグサイトとほぼ同等だが、台湾ローカル企業や日本以外の海外企業の展示面積の広さや豪華な装飾には驚いた。日本企業は、JETROや都道府県単位での出展が大半であり、小さな小間が長屋のように整列した、日本で見慣れた光景である。海外企業は展示場の作りにかなりお金をかけており、その場で商談を進める姿勢が見受けられた。
しかし、展示会場の見た目にもかかわらず、日本ブースはかなり盛況であった。日本食品の品質の高さは、台湾ではよく知られており、醤油や味噌、タレ、出汁などは現地に浸透している。日本の出展企業も更なる価値を提供しようと、「透明の醤油」や「桃味のポテトチップス」など工夫された出品が見られた。
1.あとがき
今回、FOOD台北に出展した外国企業は、日本が90社を超えてトップである。台湾は、米食が主食であるという食文化が日本と近似している。また、文化やファッションなども日本の影響を強く受けている。日本への関心が非常に高いため、日本の農林水産物・食品を受け入れる土壌が他の諸国・地域に比べて著しく高いと思われる。
台湾市場は、これから進出する食品関連企業には厳しい競争下にあるが、日本の食品が普及していない地域への進出は、その地ならしに時間とお金がかかる。特に、オーガニック製品など日本での普及に苦労している企業は、日本よりも開けた市場で勝負することができると感じられる。